イジワル外科医の熱愛ロマンス
それほど力を込めなくても、彼の手はすぐに解けた。


「雫、俺は」

「もう……お願いします」


祐が私の名前を呼ぶのを聞いて、遮るように口を開いた。


「お願いだから、もう私に構わないでください」


言ってるうちに混乱しそうになり、額に手を遣って目を伏せる。
私がいっぱいいっぱいになっているのは伝わったのか、祐もきゅっと口を噤んだ。
わずかに片足を引くようにして、私と真っすぐ向き合ったのがわかる。


「一方的に婚約破棄したことについては、ちゃんとした形で謝罪させてください。だから、お願い。もう、意地悪な復讐はやめてください」


両肘を抱え込み、ブルッと肩を震わせてから、私は祐に深々と頭を下げた。


「……意地悪?」


なぜか訝しそうに聞き返される。
心外だとでも言いたげな口調に、私は頭を下げたままギュッと目を閉じた。


「意地悪じゃないですか! ああやってからかわれるのも、私は慣れてません。混乱するってわかってて、みんなの前であんなこと言うなんて……!!」

「『仲良くなりたい』ってのは本心だよ。お前が逃げるから、皆の前で宣言しただけで、意地悪してるつもりはない。ここでも一方的に決めつけるのはやめてくれ」


吐き捨てるように言った私を、祐は淡々と遮った。


「なにを言って……」


彼の言葉の意味を考えながら、私は勢いよく顔を上げた。
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