イジワル外科医の熱愛ロマンス
恐る恐る祐を見つめると、彼の方が私から目を逸らす。


「懐かしい、って。そう思ったのは、俺だけだったか?」


祐は眉間に皺を刻み、険しく表情を歪めている。


「え?」


一瞬、なにを言われたのか理解できず、私は反射的に聞き返してしまう。


「森居さんがポロッと零した提案。実際に俺たちやったことある。この間のコンサートでも、俺はずっと……」


祐は目を伏せて言葉を尻すぼみにした。
彼が口にした懐かしい記憶に、私もついつい導かれてしまう。
そして、郷愁めいた感覚に襲われると同時に、やっぱり私は祐にされたキスを思い出し、カアッと頬を火照らせた。


「そ、そんなこと。右も左もわからない子供だったから、できたことです。懐かしくはあっても、今は再現もできません」


それはピアノの連弾に限った話じゃない。
幼なじみの枠を超えて、まるで兄妹のように育った日々も。
戻れないからこそ、あの頃を懐かしむ気持ちが湧いてくるというものだ。


「まあ、いい。別に俺は、今更お前とピアノが弾きたいわけじゃないしな」


祐は素っ気なく言い捨て、ガシガシと頭を掻いた。


「じゃあ……」


なんで、あんなことを。
私が言いかけると、祐はこちらに目線を向けて先回りするように口を開いた。
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