イジワル外科医の熱愛ロマンス
私が抵抗を見せないせいか、祐は頬を包んだ手の親指を、私の唇をなぞるように動かした。


「んっ……」


彼の指が触れる感触に、私の記憶が煽られる。
思わず小さな声を漏らした私に、祐はきゅっと唇を噛んだ。


「雫、今度こそ、俺を見ろ」

「……え?」


祐は私の下唇を押さえるようにしながら、静かにそう言った。


「リアルの恋愛、俺が全部教えてやる。溺れそうなくらいどっぷり浸る感覚を」

「なっ……なに……」

「ドキドキどころの騒ぎじゃない、狂おしいくらい俺が欲しいと思う衝動も」

「……!!」


祐が教えると言った感覚は、私の耳にはとても恐ろしく危険なもののように聞こえた。


「や、嫌……!」


ゾクッと背筋を駆け抜けた戦慄が、私の全身を震わせた。
怖い。そんなの知りたくない。
知らなくていいの、私は一生独りでいいんだから!


心の底から怯えて、私は両手で耳を塞いだ。
『嫌嫌』というように、顔を伏せて何度も首を横に振る。


「知りたくない、欲しいなんて思いません! お願いですから、本当に……」


無我夢中で口走った途端、祐が私の腕を掴んだ。
そして、抗えないほど強い力で、私を引き寄せる。


「っ、あ……!」


爪先が床にひっかかり、私は前につんのめってしまった。
そんな私の肩に、祐が片腕を回してくる。
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