イジワル外科医の熱愛ロマンス
「……だろうな。生身の俺が、ゲームの彼氏に負けるわけがない。お前が惚れるのは、この俺だけだ。……世界中どこを探しても俺しかいないんだよ」


頬に伝わる温もりと、耳をくすぐる吐息。
そして、そんな強気で強引な……いや、傲慢でしかない言葉が、私の心を大きく揺さぶる。


ハグ、された。
甘い言葉でからかわれた。


ただそれだけのことなのに、私は今、鼓動を高鳴らせ、完全に抵抗の目を削がれてしまっている。
けれど――。


祐が私を覗き込むように、顔を寄せてくる。
綺麗な形の顎を傾け、長い睫毛を伏せながら、唇を近付けてくる。


キスされる――。


「っ、や、めて……!!」


私は咄嗟に、自分を奮い立たせるように声をあげた。
大きく顔を背けながら、祐の口を右手で押さえ、それ以上の接近を阻む。


手の平に触れた祐の唇が微かに震え、彼が息をのんだ気配が伝わってくる。
私を抱き締める腕の力が、わずかに緩むのを感じて、私はもう片方の手で彼の胸を押して身体を離した。


「どう、して……?」


激しく打ち鳴る胸を押さえつけ、掠れそうになる声で、どうにか一言を口にした。


「どうして、そんなこと言うの……」


私は必死に声を絞り出す。
祐は、一度きゅっと口を噤んだ。


「俺が演出する復讐劇は、まず雫をリアルに引き戻さなきゃ意味がない」
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