イジワル外科医の熱愛ロマンス
祐はそう言って胸の前で腕組みをした。
瞬きする私に、ニヤリと口角を上げて笑う。


「『祐のものにはなりません』。そう言って俺を拒んだ雫が、今度は逆に俺を欲しがって求めてくる。……そうだな、そこまで落としたら、俺も満足できそうだ」

「なっ……!」


あまりにも不遜な言い方に、言い返す言葉が見つからず、絶句した。


「抗いようもないくらい堕ちろ。なりふり構わず俺を欲しがれ」


細めた目で射貫くように見つめられる。
暴力的にしか聞こえないその言葉に、私の頬はカッと熱を帯びた。


「そ、そんなこと、私っ……!」

「なるほど……そうだな。お前が俺に身も心も、堕ちれば……俺にとって最高の復讐になるのかもな」


祐は、自分の言葉を『名案だ』とでも言いたげに、顎を摩りながら逡巡するように呟いた。
彼の言葉に怯んでゴクッと喉を鳴らす私に、チラリと横目を向けてくる。
怯む私を観察しながら、祐が一歩足を踏み出した。


せっかく作った間隔を詰められ、反射的に身を強張らせてしまう。
けれど彼はフッと鼻で笑って、私の横を通り過ぎた。


「いつまでも二次元に浸ってないで、現実世界で乱れて見せろよ。な? 品行方正で真面目な旧華族のお嬢様」


最後は皮肉るような言葉を、声を潜めて呟く。
グッと息をのむ私に背を向け、祐は真っすぐ背筋を伸ばして教室から出ていった。
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