イジワル外科医の熱愛ロマンス
その日――。
医局に戻った後も、私の頭も心も、大型ハリケーンが襲来したかのように荒れ狂っていた。
その後、祐が医局に来なかったのが、せめてもの救い。
それでも、講義資料の作成などという仕事にはとても集中できない。
またミスを重ねてしまいそうで、残り半日、人に迷惑をかける可能性の少ない、簡単な雑務に徹した。


終業時間を迎えると同時にパソコンをシャットダウンして、挨拶もそこそこに医局を飛び出した。
寄り道してる余裕もない。
私はまっすぐ家に帰り、夕食後は部屋に引き上げ、ひたすら恋愛ゲームに没頭した。


これまでに相当コインを集めているから、それを使えば翔君との恋はサクサクと進む。
なのに、私はいつものように、ゲームの『雫』に感情移入できなかった。
まるで他人の恋を覗き見ているようで、どこか後ろめたい……変な感覚に襲われたせいだ。


だって『雫』は、私じゃない。
私が勝手に自分の名前をつけてプレイしてるというだけで、私とは全然別の『人格』だ。


生まれや生い立ちと言った環境だけじゃなく、話し方も考え方も、翔君に対するリアクションも……好きな食べ物だって違う。
翔君と恋を進めているのは私ではないんだから、覗き見という感覚も、当然なのかもしれない。


ぼんやりと文字を目で追うだけ。
たまに出てくる選択肢も、それほど考えず適当にタップした。
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