イジワル外科医の熱愛ロマンス
一日の仕事の最後に、澄子さんが綺麗に片付けたキッチンに入り、食材のストックを漁ってみる。
使える材料が見つかったから、私は二時間かけて数種類のクッキーを焼いた。


こんな物がお詫びになるかはわからない。
だけどとにかく、明日、これを渡して改めて謝ろう。


焼き上がったクッキーを一枚指先で摘み、味見がてら齧ってみる。
昔はお菓子作りも好きでよくやったけど、最近はあまりキッチンに立つこともなかった。
ちょっと不安もあったけれど、どうやら身体が覚えてくれていたようだ。


「……甘い」


大人の男性に贈る物だから、ちょっと甘さを控えめにしてみたけれど、それでもクッキーはほんのり甘い。
私は自分で呟いたその言葉に、なぜだか胸がきゅんとして、テーブルに突っ伏した。


――そう、甘いんだ。
祐が私に仕掛ける復讐は。


もっと違う方法で『意地悪』に徹してくれるのなら、私だってそこまで動揺しない。混乱しない。
なのに、祐が私にすることは全部甘くて……知りたくない感覚や感情を、容赦なく刻み込んでくる。


「私が身も心も堕ちれば、満足だなんて……」


そうなったら、祐は復讐に飽きて、やめてくれるだろう。
でも、その後私はどうすればいい?
また『絶対ない』と言われて、傷付くことになるだけだ。


「ほんと、最高の復讐……」


私はテーブルに突っ伏したまま、小刻みに肩を震わせた。
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