イジワル外科医の熱愛ロマンス
胸に、なにか温かいものがじわ~っと広がっていく。
私は鼻の奥の方がツンとするのを感じながら、そっと医局内に視線を走らせた。


大半の医局員は、全体朝礼のある月曜日の朝以外は、直接附属病院に出向く。
もともと普段から、この時間医局に人は少なく、静かで閑散としている。


しかも今日、美奈ちゃんは有給休暇を取っていて不在だ。
いつもは教授室にいる園田教授も、一昨日から出張に出ていて、今、医局には私と木山先生の二人だけ。


医局のどこで話をしても、誰にも聞かれる心配はない。
だからこそ、木山先生はそう言ってくれているのかもしれない。


「あ、の……」


なんでもないんです。大丈夫。
そう言って誤魔化そうと思ったのに、私の声は詰まってしまった。


掠れて消え入る私の声を聞いて、木山先生がギョッとしたように目を丸くしている。


「え? ど、どうした? 本郷さん」


目をパチパチと瞬かせながら、木山先生が背を屈めた。
そっと窺うように、私の顔を覗き込んでくる。


「す、すみません。私、あの……」


割と近い距離に驚いて、私は慌てて顔を背けた。
ズッと一度鼻を啜ってから、込み上げる涙をのみ込もうとして、ゴクッと喉を鳴らす。


「ちょっと座ろう。本郷さん」


木山先生はそう言いながら私の手を取り、休憩スペースのソファに誘った。
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