イジワル外科医の熱愛ロマンス
時間の経過と共に、向かい合ってオペを進める二人のドクターの額に汗が滲み出す。
時折外回りナースが拭き取るのを見つめながら、私はキュッと唇を噛んだ。


この大動脈弁置換術というのは、心臓血管外科の専門医資格取得の為に指定されているオペの中で、難易度的にはBランクにカテゴリされるそうだ。
研修医課程を終えて心臓外科を専門に選んだ祐が、絶対に目指すべき資格。
経験を積むべきオペ――。


このオペで、祐が園田教授の第一助手として入ることは、ちょっと前から決まっていた。
研修医が見学に入ることも、木山先生が引率することも。


私が同行するように言われたのは、木山先生の『一肌脱ぐ』宣言の翌朝。
まだほんの三日前のことだ。


『就いてもらうのは、あくまでも僕のアシスタント。プログラムの一環で、宝生先生のオペを見てもらうことになるだけだよ』


当たり前の業務命令に怯んだ私に、木山先生はデスクの椅子に座って、長い足を大きく組み上げながらそう言った。


もちろん、拒否できることじゃない。
それでも、私の為に一肌脱ぐと言ってくれた木山先生が、何故祐のオペを見せようとするのか真意が測れず、私は今朝まで躊躇していた。


だけど、こうしてオペをする祐を見ているうちに、木山先生がなにをしたかったか、なんとなくわかってしまったような気がする。
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