イジワル外科医の熱愛ロマンス
「ちょっ、美奈ちゃん……」


ニヤニヤ笑ってからかう美奈ちゃんを、私は慌てて止めようとした。


「准教授と秘書だもの。仲がいい方が医局の業務もスムーズでいいだろ?」


木山先生はシレッと流したけど、私は真っ赤になってしまう。


「あれ。雫さん、もしかして満更でもないとか……?」

「み、美奈ちゃん! やめてください。木山先生にも迷惑ですっ」


私が頬を膨らませて咎めると、美奈ちゃんはふふっと悪戯っぽく笑って、肩を竦める。


「え? 違うの? なんだ。やっと木山にも春が来たかと思ったら」


私の反応を見て、一色先生が残念そうに呟いた。
彼は木山先生とは同期に当たる。
割と正反対のタイプだけど、結構仲がいいらしい。


美奈ちゃん曰く『ここ数年決まった彼女はいないみたい』という木山先生を、同期として心配しているのかもしれない。
一色先生が「はあ」と溜め息をつくと、木山先生がどこか憮然とした表情を浮かべた。


「いいんだよ。俺はこういう役回りで。女とか結婚とか、教授になってからの余生でゆっくりするから」


本気か嘘かどっちとも判断しがたいことを呟き、木山先生はさっさと配膳カウンターに向かっていく。


「こういう役回りって?」

「あ、ええと……」


木山先生を見送った一色先生が、顎に手を遣り不思議そうに首を傾げるのを見て、私は思わず言い淀んだ。
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