イジワル外科医の熱愛ロマンス
だから私も、こうして近くで彼を見るのは、あの日以来のことだ。


教授の声につられたのか、祐はチラッと私を見遣る。
その口角がフッと意地悪に上がるのを見て、私は思わず胸に手を当てた。


私が今日のオペの見学に入ったことを、聞いて知っているのかもしれない。
胸の鼓動が飛び跳ねるのを見透かされたような気分で、私は祐から顔を背けた。


そんな私に首を傾げながら、園田教授が近付いてくる。


「あ、その……す、スケジュールのことでご相談が……」


私の前で足を止めた教授の後ろを、祐は素通りしていく。
彼が教授室に向かうのを横目に、私はそう切り出した。


「そうか。それじゃあ、本郷君の話も教授室で聞こう。来なさい」

「っ、え?」


まさに祐が教授室のドアを開けるのを見ながら、私は素っ頓狂な声で聞き返してしまった。
教授の声が聞こえたのか、祐の方もドア口で立ち止まり、こっちを振り返っている。


「ああ、宝生君も中に入って。スケジュールのことだから、それほど話は長くならない。待たせないよ」

「そうですか。わかりました」


祐は教授に頷きながら、キビキビした声で返事をした。


「さ、おいで。本郷君」


怯みはしても、促されてしまっては、異論を呈することもできない。
結局私は、躊躇いながらも医局の奥の教授室に入った。
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