イジワル外科医の熱愛ロマンス
「でしたら、本郷さんにご同行願えれば」

「……えっ!?」


祐の横顔をそっと窺う私の耳に、彼が発したとんでもない言葉が飛び込んできた。
ギョッとして目を剥く私に、祐は意地悪に細めた横目を流してくる。


「中京医科大学と東都大学は昔から懇意にしてますし、本郷さんなら、あちらの院長や准教授と面識があるかと思うのですが」

「ああ。確かに本郷君には、去年同行してもらったね」

「ちょっ……待ってください、あのっ!」


一瞬、頭の中が真っ白になり、私の返事はワンテンポ遅れた。


「あれ。なにか不都合かい?」


教授は私の呼びかけに反応して、真っすぐ顔を向けて訊ねてくる。


「いえ、そう言うわけでは。でも……」


祐の出張に同行するのが嫌だと、はっきり言うわけにもいかない。
かと言って業務命令を拒む上手い理由が即座に浮かばず、私は言葉に詰まってしまった。


「それなら問題ないね。悪いが本郷君。宝生君のアテンドを頼むよ」


園田教授の鶴の一声。
もちろんそうまではっきり頼まれてしまっては、私にはもう反論の余地もない。


「は、い……」


反射行動のような返事をしながら、頭では、とうとうこの日が来てしまった、と激しく動揺していた。


いつか祐の出張に同行することもあるだろう、と覚悟はしていたし、仕事だから嫌だなんて言えない。
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