イジワル外科医の熱愛ロマンス
初日に当たる土曜日の午前中のチケットが、今から簡単に手に入るとは思えない。


絡みつくような祐の視線は無視して、私は電話中の園田教授に、勢いよく頭を下げた。
教授が軽く手を上げて合図してくれるのを横目に、急いで教授室から飛び出した。


「お帰りなさーい」


医局に戻った私に気付いた美奈ちゃんが、呑気に声をかけてくれる。
それに返事をする余裕もなく、私は自分のデスクに着いた。
パソコンのロックを解除して、インターネットに接続する。


もちろん、アクセスするのは鉄道会社のHP。
新幹線のチケットをネットで購入できるページだ。


焦りでバクバクする心臓が苦しい。
私は胸に手を当てながら、来週土曜日、午前中の空席を探した、けれど……。


私の目に映るのは、無情にも『空席無し』を示す『×』の記号だけ。
飛行機の便も探してみたけど、バカ高い正規料金ですら満席という始末。


絶望しながらマウスから手を離し、私はデスクの上で頭を抱え込んだ。


どうしよう。
当日の新幹線が取れない。
このままでは、本当に祐の脅し通り、前泊するより他、方法がなくなってしまう……!


「雫さん……?」


切羽詰った気配が伝わったのか、美奈ちゃんがどこか遠慮がちに声をかけてくる。
それでも私は顔を上げることができず、どうしよう、どうしよう……と考え込んでいた。
< 145 / 249 >

この作品をシェア

pagetop