イジワル外科医の熱愛ロマンス
でも、お互いに少しは好意があったもの、とでも思ってるんだろう。
だから、私がそこまで嫌がる理由を、わかってはもらえない。


ところが、私たちの間にはこれっぽっちの好意もなく、もちろんなんの実態もなかった。
『婚約者』ではなくただの同僚でしかない今、祐との距離が強引に縮められていく。
私はただ混乱していた。


なにをどこまで、どう説明すればいいんだろう。
結局私は黙ったまま、膝の上で両手をぎゅっと握り締めた。
自分でも思う以上に力がこもり、血の気を失い蒼白になった手が、カタカタと震えてしまう。


木山先生は大きく広げた足に肘をつき、組み合わせた両手の指に顎を置いた。
軽く背を屈めた姿勢から、私を上目遣いに見つめてくる。
俯く私の耳に、木山先生の小さな溜め息が聞こえてきた。


「一肌脱ぐって言ったしね。こうなったら、ちょっと強めの防御線張っておくかな」


そう言って、木山先生がソファから立ち上がる。


「え?」


彼の言葉と行動につられ、私も聞き返しながら顔を上げた。


「宝生先生は? まだ教授室にいる?」

「は、はい。今日のオペのことで、園田教授とお話しされていて……」


訊ねながらさっさとドアに向かう木山先生に、私も慌てて立ち上がって返事をした。
彼はそれを聞いて「よし」と呟く。
< 147 / 249 >

この作品をシェア

pagetop