イジワル外科医の熱愛ロマンス
「宝生先生、お疲れ様」

「あ、木山先生」


祐は教授室のドアを静かに閉めてから、木山先生の呼びかけに導かれるように、私たちの方に顔を向ける。
その視線が、私の上で止まった。


木山先生の後に従うように立ち竦む私に、祐がわずかに訝しげに眉を寄せる。
私は身を縮め、木山先生の後ろに逃げ込んだ。


「なかなか立派なクランプだったね。人工心肺への移行もスムーズだった。園田教授もご満悦だったろ?」


先ほどのオペでの手技を褒める木山先生に、祐が「まだまだですよ」と謙遜する。


「一応合格点だと言ってもらえましたけど。教授からは教わることが多くて、ほんと、勉強になります。あ、ぜひ今度、木山先生にもご教示いただきたいですね」


新米助教としては模範解答みたいな祐の返事。
木山先生は、ほんのちょっと苦笑した。


「僕は今はそれほど難しいオペの執刀はしていないからな。研究論文の指導なら、喜んでいくらでも」

「助かります」


二人のドクターが交わすのは、医局ではよく聞く上司と部下の会話、そのもの。
それに聞き耳を立てているのは私だけじゃない。
ふと目を向けると、美奈ちゃんもパソコンに向かって仕事しながら、肩越しにチラチラと視線を向けている。
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