イジワル外科医の熱愛ロマンス
探るような目を向けられて、私は一瞬返事に窮した。
すぐに気を取り直し、目線を自分の手に落として指を折る。


「い、家の近くの駅とか、街中とか。一緒に歩いてて……」

「雫さ~ん。そんなんで浮気なんて言っちゃ、宝生先生が可哀想です」


美奈ちゃんは私の言葉を遮って、呆れたような溜め息をついた。
そして、ちょっと意地悪に目を細めて、声を潜めて続ける。


「お嬢様育ちだと、そういうのも疎いのかなあ……。あのですね。近くの駅で一緒に歩いてただけなら、たとえば私と木山先生でも十分浮気になっちゃいます!」

「美奈ちゃんと木山先生って……」

「もちろん、ないです。いいですか、雫さん!」


美奈ちゃんはそう言って、ドンと軽くカウンターを叩いた。


「浮気が原因の離婚調停とかで、絶対的な証拠として提出できるのは、まさにその現場を押さえたとか、ラブホテルから出てきたところを捕えた、いわゆる事後の写真。そのくらい、法律知識なんかなくても、ワイドショーとかドラマ見るだけでわかる常識ですって!」

「じょ、常識って……」


すごい剣幕で言い放つ美奈ちゃんにギョッとして、私は目を白黒させた。
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