イジワル外科医の熱愛ロマンス
そして、出張当日。
医療フォーラムを終え、教授と夕食を済ませてやってきた祐と、ホテルのロビーで合流した私に、


「……お前、バカか?」


彼はそう言って呆れた。


その日……。
業務を終えた私は、東京駅から新幹線に飛び乗り、大阪に着いてすぐこのホテルに向かった。
先にチェックイン手続きを済ませ、ここで祐が来るのを待っていた。


三十分ほどで現れた祐にルームキーを渡し、踵を返した私は、『どこに行く?』と呼び止められてしまった。
怪訝そうに眉を寄せた祐。
きっと、同じホテルに私の部屋があると、思い込んでいたからだろう。


私は仕方なく足を止めた。
こうなった以上開き直るしかなく、私の部屋はないことを告げた。


『は?』と短く聞き返されて、事情を説明した私に彼が向けた言葉が、呆れ顔の「バカか?」だったということだ。


今、祐は、呆れを通り越したのか、思いっ切り蔑むような目をして、無言で私を見下ろしている。
一泊旅行サイズの小さめのボストンバッグを片手に提げ、渋い顔で胸の前で腕組みをする祐の前で、私は肩も首を竦めて縮込まった。


「来たはいいが宿がないって、どうするつもりだよ?」


はあっとこれ見よがしな溜め息をつかれて、私はうっと言葉に詰まる。
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