イジワル外科医の熱愛ロマンス
そのタイミングでエレベーターのドアが開き、祐ははあっと声に出して息を吐く。


「いくら俺だって、『上司の彼女』に手なんか出さない」

「えっ?」


聞き返すのと同時に強く背を押され、前につんのめりそうになる。
慌ててバランスを立て直してから振り返った時、両側からドアが閉まっていくのを見た。


ギョッとする私に、祐は壁に背を預けて眉をひそめた。
そして、プイッと顔を背ける。


「ベッドは二台あるんだ。問題ないだろ」


素っ気なく言い捨てられて、私はヒクッと喉を鳴らした。


「も、問題って」


目を剥いて聞き返しながら、私はゴクッと唾をのんだ。


「漫喫に泊まるってわかってて、黙って見送って、後で木山先生に咎められる方が嫌だ」


その言葉で、私も確信してしまう。
このままエレベーターが停まったら、私は祐と同じ部屋に連行されてしまうんだと。


「ま、待ってください!」


慌てて声をあげた。
少し裏返って甲高くなった声が、狭い箱の中に響く。
祐が『うるせっ』と言うように片目を閉じ、同じ側の肩を竦めるように上げた。


「手なんか出さないって言ってんだろ」


祐は身を捩るようにして私に背を向け、それっきり黙り込んでしまった。
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