イジワル外科医の熱愛ロマンス
だからこそ、こんなにゴージャスなセミダブルのベッドで、上質なリネンにくるまって眠れるなら、その方がもちろんありがたい。
だけど……私は早速後悔し始めていた。


今祐が壁の向こうのバスルームでシャワーを浴びている。
どんなに高級な部屋でも、客室内のバスルームからの音を遮断できる防音性があるわけもなく、ベッドの上で身を縮ませている私には、その水音がばっちり耳に届いてしまうのだ。


失敗した。
今晩私は居候の身だし、窓際のスペースを全部祐に使ってもらうつもりで、つい壁際のベッドを使わせてもらうことにしたけど、窓側にすべきだった。


まさか、こんな落とし穴があるとは――。
頭を抱えて葛藤しながら、ハッと思いついてバッグをひっくり返した。
とりあえず、救いを求めてスマホを取り出す。


もうこの際、ゲームの世界にどっぷり浸かってしまうしかない。
いつもなら翔君に『雫』と呼んでもらうだけで、ものの五分で私は三次元からトリップできるんだから。


ほとんど縋る思いで、私はアプリを起ち上げた。
だけど、どんなに翔君のスチルとセリフを追っても、耳は壁の向こうから聞こえる水音ばかりを捉えてしまう。
そっちに気を取られてしまっていつものように集中できず、翔君のスチルが祐にしか見えない。
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