イジワル外科医の熱愛ロマンス
翔君のセリフも、祐に言われているような気がしてしまう。
祐が絶対に言うわけのない優しげな言葉に、無駄にドキドキしてしまう。


「だ、ダメだ。いつもみたいに夢中になれない……!」


この際テレビを大音量で点けてしまおうか。
いやいや、それじゃ、周りの部屋の迷惑になるかもしれない。


ああ、せめてイヤホンだけでもあれば。
音楽をダウンロードして、耳もスマホに集中させることができるのに……!


――と、葛藤を繰り返していたせいで、私はシャワーの音がやんでいたことに気がつかなかった。
いきなりバスルームのドアが開く音がして、胸がドキンと跳ね上がった。
慌ててその方向にクルッと背を向け、両手を重ねてスマホを握り締める。


背中で、祐が部屋に戻ってきた気配を感じる。
私はベッドの上でしっかりと正座をして、背筋を伸ばし、肩にも力を込めてガチガチに固まった。
『ふうっ』と、なにか心地良さげな息をする声が聞こえる。


「なんだ、テレビくらい点ければいいのに。やけに静かだと思ったら」


室内履きのスリッパがペタペタと鳴る音。
今や私は、祐にまつわるすべての音も気配も、感覚から遮断しようとしていた。
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