イジワル外科医の熱愛ロマンス
ドライヤーの『ゴーッ』という風音の隙間で、トントンとドアをノックする音も聞こえてくる。
反射的にギクッとして、私はドライヤーのスイッチを切った。
風音がやんだのが外にも伝わったのか、祐が再び声をかけてくる。


「悪い。用足したいんだけど」

「す、すみません! すぐに出ます」


慌てて返事をしながら、ドライヤーのコンセントを抜いて棚に戻す。
脱いだ服はバスタオルにくるんで隠し、胸の前で抱え込んだ。
大きな鏡に映るバスローブ姿の自分を視界に入れないようにして、そっとドアを開ける。


「お待たせしました……」


ボソボソとか細い声でそれだけ言って、隠れるように肩も首も縮めて、祐の横を擦り抜けた。
彼がチラリと振り返ったのがわかったけど、足を止める余裕はない。
祐がバスルームに入っていく気配を感じながら、私は大急ぎで服をクローゼットのハンガーに吊るし、彼が出てくる前に自分のベッドに潜り込んだ。


「……あ?」


バスルームから出てきた祐が、私に訊ねかけてくる。


「なんだ。雫、まさかもう寝るのか?」


私は頭まですっぽり布団を被り、「はい」と返事をした。


確かに時刻はまだ夜十時。
普段は私だって、まだまだ寝るには早いところ。
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