イジワル外科医の熱愛ロマンス
私はビクッと肩を震わせながら、胸がドキドキと加速し始めるのを感じた。


「お前がどんなに嫌だって言っても、俺のものにしときゃよかった。婚約解消されて逃げられるなんて、憂き目に遭うくらいだったら」

「っ……欲しいのは私じゃなくて、『本郷の娘』でしょ!? 婚約破棄だって、世間体が悪いとしか思ってないくせに!」


どこまでもふてぶてしい祐の言いように、私も思わず声をあげてしまった。
そして、不愉快そうに眉尻を上げる彼を見て、慌てて両手で口を覆う。


「『本郷』にこだわってたのは、祖父さん世代までだ。だが、世間体を考えてなにが悪い?」


祐はいつもよりトーンの低い声で、私にゆっくりと含めるように訊ねてきた。


「『宝生総合病院のご子息は、華族の血を引く名家のご息女から一方的に婚約を破棄された』なあんて、週刊誌にも書かれたんだぞ。破談の原因はなにか、って探る記者に追い回されて。いったい俺が、どれほど屈辱的な目に遭ったと思ってるんだ。侮辱罪で訴えてもよかったくらいだ」


この並々ならぬ自尊心に満ちた男が、ギリッと奥歯を鳴らすくらいだから、きっとよほどのことだったんだろう。
それを考えれば、確かに私は訴えられても仕方のないことをしたのかもしれない。
だけど。


「……恋も結婚も、私なんか絶対にないって言ったくせに」
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