イジワル外科医の熱愛ロマンス
祐もなにも言わずに、私を仰ぐように顔を上げた。
私が訊ねるのを拒む様子はないけれど、自分から話を促す気もないようだ。


ただ、私の一挙手一投足を、ほんの一瞬でも見逃すまいとしているように、観察するような目を向けてくるだけ。
私は、そんな祐の前で、自力で立っているのがやっとだ。


お互い別々の姿勢で向き合ったまま、ずっと無言でいる私と祐を気にするように、何人かの女性たちが、通り過ぎながらチラッと振り返っていく。
彼女たちが、『あれ、彼女?』とヒソヒソ話すのが耳に届き、私は無意識にビクンと身を震わせてしまった。


思わず俯いた私の視界の端っこで、祐が足を解いたのが見える。
小さな溜め息をついたのが、私の耳にも届いた。


「荷物、サンキュ」


祐はソファから勢いをつけて立ち上がると、私の手からサッと掠めるように奪い取った。
短い謝辞の言葉は、私の想像以上に硬く素っ気ない。
そのまま、床にカツカツと踵を打ちつけ、私の横を擦り抜けて行った。


「ゆ、祐」


私は身を竦ませてしまう。
それでも、なんとか彼を振り返った。


「祐、昨夜の……」

「さっさと仕事、終わらせよう。話は後だ」
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