イジワル外科医の熱愛ロマンス
なんとか呼びかけたものの、抑揚のない祐の声に遮られてしまう。
彼は私に目をくれることなく、さっさとロビーを横切って行ってしまった。


「ま、待って……」


大きな歩幅で、どんどん離れていく祐の後を、慌てて追いかける。
私が追いつく前に正面玄関を出て、彼は真っすぐタクシー乗り場に向かって行った。


小走りで追いついた私を、タクシーの後部座席のドアを支えて、先に乗るようにエスコートしてくれる。
シートに腰を下ろしてそっと上目遣いで見つめたけど、祐は私からは微妙に視線を外している。


私の後から自分も乗り込むと、わずかに運転席に身を乗り出した。
祐から行き先を告げられ、運転手さんがタクシーを発進させる。


「……祐……」


声をかけるタイミングを探して、私が横顔を窺っていたことに、気付いていたと思うのに。
祐はさっさと目を閉じてしまった。
ホテルのロビーでソファに座っていた時のように、深く身を沈めて、腕組みをして。


『最初から、そのつもりだったんですか?』


それだけは、今聞いておきたかったけど、目も口も閉ざした祐からは、無言の拒絶を感じる。
今聞いても答えてくれない気がして、私は呼びかけただけで声を途切れさせた。
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