イジワル外科医の熱愛ロマンス
私の反応をしっかり確認して、祐は素っ気なく『ふ~ん』と鼻を鳴らしただけだ。
そして、私に背を向けて、さっさと一人で正門を潜り抜けてしまう。


「あ、ちょっと……」


慌ててその背を追おうとして、私はピタッと足を止めた。
胸がドクッと音を立てるのを感じて、反射的にそこに手を当てた。


あんなこと言われて、眠れるわけがないじゃない――。
心の中で祐に言い返して、私はギュッと唇を噛んだ。


「……ズルいよ」


まだ頭のなかはグチャグチャだけど、私の方だって聞きたいことはあるのに。
それを拒むように、さっきからずっと私を避けていたのは祐だ。
なのに自分だけ平然として、頭の中はすっかり仕事モードに切り替わってしまったんだろうか。


昨夜のことを、質さないわけにはいかない。
だけど確かに、今私はここで仕事を済まさなきゃいけない。


自分にそう言い聞かせて、私は一度大きく深呼吸をした。


祐はどんどん先にキャンパスを進んで行ってしまう。
先方との約束の時間も迫っている。
こうなったら、彼の言う通り、まずは仕事を終わらせるしかない。
それが済めば、ちゃんとゆっくり話す時間もあるはず。


それでも、ここでの仕事が終わるまで、私の頭の中は祐のことでいっぱいだ。
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