イジワル外科医の熱愛ロマンス
私、本郷雫(ほんごうしずく)は三月三十一日生まれ。
まさにこの桜の季節に生まれ、両親は私に『桜』と名付けようとしたそうだ。
それが『雫』になってしまったのは、一族きっての絶対的権力者である、祖父が命名したから。
生まれた子供にとって、名前は自分で選べるものじゃない。
物心ついた時既に『雫』と呼ばれていた私にとって、正直『桜』でも『雫』でもどっちでもいいのだけど、まだ年端のいかない幼い頃、名付けの理由を祖父に訊ねてみたことがある。
すると、こんな答えが返ってきた。
『桜は日本の国花。象徴的な花だ。そんな高尚な名前をつけて、名前負けと言われては可哀想だろう』
そして、『女性たるもの控えめな印象を与える名が一番』と続けられた。
当時の私は『なるほど、私の為』と素直に頷いたけれど、よくよく考えれば、名前負けすることを予言されたようなもの。
ありがたいんだか腹立たしいんだか、どう捉えていいのかよくわからない。
だけど、一つ年を重ねる毎に、確かに私は『桜』ではなく『雫』だと、頷けるようになった。
私は、遠い桜から焦点を外し、窓ガラスに映る自分を見つめた。
外が暗いせいで、私の姿かたちが割とよくわかる。
まさにこの桜の季節に生まれ、両親は私に『桜』と名付けようとしたそうだ。
それが『雫』になってしまったのは、一族きっての絶対的権力者である、祖父が命名したから。
生まれた子供にとって、名前は自分で選べるものじゃない。
物心ついた時既に『雫』と呼ばれていた私にとって、正直『桜』でも『雫』でもどっちでもいいのだけど、まだ年端のいかない幼い頃、名付けの理由を祖父に訊ねてみたことがある。
すると、こんな答えが返ってきた。
『桜は日本の国花。象徴的な花だ。そんな高尚な名前をつけて、名前負けと言われては可哀想だろう』
そして、『女性たるもの控えめな印象を与える名が一番』と続けられた。
当時の私は『なるほど、私の為』と素直に頷いたけれど、よくよく考えれば、名前負けすることを予言されたようなもの。
ありがたいんだか腹立たしいんだか、どう捉えていいのかよくわからない。
だけど、一つ年を重ねる毎に、確かに私は『桜』ではなく『雫』だと、頷けるようになった。
私は、遠い桜から焦点を外し、窓ガラスに映る自分を見つめた。
外が暗いせいで、私の姿かたちが割とよくわかる。