イジワル外科医の熱愛ロマンス
「知り合いだってことも、知られたくないです。でもそれは、祐の方も同じでしょう?」

「……はあ?」

「ごめんなさい。あなたが言うように、もう自分勝手で構いませんから。私、心臓外科医局のお仕事も周りのみんなも、とても好きで大事なんです」


訴えかけるように言ってるうちに、それがとても切実な願いのように思えてきた。


「万が一にも、あなたの婚約者だった過去があるなんて知られたら……恥ずかしくて、医学部棟の屋上から飛び降りたくなりそうです」

「なっ……ちょっと待てっ」


一瞬呆気に取られてからすぐに気色ばみ、祐が私の腕を掴もうと手を伸ばしてきた。
それを私はサッと交わす。


『よく知ってる』というのも悔しいけれど、幼なじみだもの。
彼がどんな反応に出るかくらい、私は簡単に読めてしまう。


「お願いですから、私の平穏の邪魔だけはしないでください」


それだけきっぱりと言ってから、私は静かに目礼をして、少し大きな歩幅で歩き始めた。


「おいっ……雫!」


さすがに、私が心底迷惑してることは伝わったのか、祐は呼びかけはしても追いかけてはこない。


「恥ずかしいって、なんだよっ……!」


そんな憤りも露わな言葉を耳にしながら、私はお店の中に逃げ込んだ。
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