イジワル外科医の熱愛ロマンス
「お前は堅物だから理解できないかもしれないが、思春期の男なら、まあ当然だ。俺は、とにかくアイツの妄想掻き消したかった。だから、ああ言った。『雫なんか絶対ない』って」


祐は言葉を切って、フッと顔を上げた。


「点滴、終わるな」


そう言って、ガタンと音を立てて椅子から立ち上がる。
それにつられて、私も黙ってそっと顔を上げた。


祐は慣れた手つきで点滴を止めた。
ベッドサイドの床頭台から、膿盆を手に取りながら、話の続きを始める。


「お前のエロい姿、見るのも想像するのも、俺だけだって、そう思ってたからな」

「ゆ、祐だって嫌です!」


祐はシレッと言いのけるけれど、私の方はそんなの堪ったもんじゃない。
反射的に言い返す私をチラリと見遣り、祐は箱ごと置いてあったディスポのグローブを両手に嵌めた。


「信じられない……最低……」


私が半泣きになって声を消え入らせると、彼は黙って私の左腕から針を抜いてくれた。
処置を終え、片付けると、私を見下ろしてくる。


私は祐の視線を拒むように、膝を両腕で抱え込んだ。
祐が、私の頭をポンと叩く。


「とりあえず、誤解は、解けたか?」


その言葉を、私は無意識に自分で繰り返した。


「誤解……私、十年以上も……」


自分の呟きに、混乱が強まっていく。
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