イジワル外科医の熱愛ロマンス
「あ……」


美奈ちゃんがなにを言おうとしているか、私にもはっきりとわかる。
そして、その言葉に大きく心を揺さぶられた。
胸がドクッと、まるで疼くような音を立てる。


思わず、美奈ちゃんと木山先生を、交互に見遣った。
木山先生も美奈ちゃんの言葉に「そうだね」と相槌を打つ。


「それにね。僕が思うに……もし初恋からやり直しても、多分、本郷さんも物足りないと思うよ」

「物足りない、ですか? 私が……?」


困惑しながら木山先生の言葉を繰り返す私を覗き込み、美奈ちゃんがニコッと笑った。


「そうそう。だって雫さんは中学生じゃないもの。二十八歳の立派な大人の女性。初恋当時から身も心も育ってるんだから、キラキラの初恋なんかじゃ満足できません」


右手で拳を握って力説する美奈ちゃんに、私は無意識にゴクッと喉を鳴らした。


「どうしようもなく好きになって、恋する心に抗えない……そんな風に好きになれるって、幸せです。だから、怖がらないで」


はにかんで言い切った美奈ちゃんに、私の胸の鼓動は大きく跳ね上がった。


彼女自身がそういう大人の恋をしているからこそ言える、『幸せ』という言葉。
それを私に諭してくれた美奈ちゃんは、とてもとても綺麗で、私は彼女を心底から羨ましいと思った。
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