イジワル外科医の熱愛ロマンス
「祐さん、一時間ほど前にお帰りになってます。お食事はこれからですが、雫さん、ご一緒にとられますか?」


島田さんは私を気遣ってくれたけど、それには首を横に振った。


考えてみれば、祐がご両親に私とのことを話しているかわからない。
いや、また始めようと決めたのは先週のことだし、まだなにも話していないと思うのが正しいのかもしれない。
同じ医局で働いていることは知ってるかもしれないけど……。


もし顔を合わせたら、挨拶しなければならない。
私はなんて言えばいいんだろう?と不安になり、島田さんにご両親の所在をそっと確認してみた。


「旦那様と奥様は、海外出張に出られてます。あ、私も祐さんの食事をお出ししたら、お暇させていただきますけど」


その返事を聞いて、なんとなく胸を撫で下ろした。
島田さんが用意してくれたスリッパに履き替え、広く長い廊下に足を踏み出すと、奥からピアノの音色が聞こえてきた。
思わず足を止める私を、一歩先を行く島田さんが振り返る。


「お帰りになってシャワーを浴びた後、食事の時間まで弾くと言って、今、テラスにいらっしゃいます」


そう言って、島田さんはその言葉通り、廊下を真っすぐ突き進んでいく。


「あ」


私も慌ててその後を追った。
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