イジワル外科医の熱愛ロマンス
物音がしたかと思うと、中からドアが開けられ、祐が目を丸くして立っていた。


「雫?」


約束はしていない。
私の突然の訪問にこの反応は、もちろん予想していた。


「ご、ごめんなさい。急に」


彼の顔を見たら緊張感が強まってきて、私は少しつっかえながら謝った。
小さく頭を下げる私に戸惑っている様子ではあるけれど、祐は島田さんにお礼を言った。


「坊ちゃま、お食事、いかがされますか? 雫さんは、いいと」


島田さんが、私と祐の様子をちょっと探るようにそう訊ねかけた。
問われた祐はチラリと私を見遣り、島田さんに小さく頷いてみせる。


「キッチンに置いておいてください。片付けが終わったら、帰ってくれていいです」

「かしこまりました。では、失礼させていただきます」


島田さんが深く頭を下げて廊下を戻っていくのを見送って、祐はテラスのドアを大きく開けた。


「どうぞ。入って」


そう言いながら私の背を押し、中に促す。


「なに。今日一日、俺に会えなくて寂しかったのか?」


私が中に進むのを確認して、祐がからかうようにそう言った。
そっと振り返ると、彼はしっかりとドアを押し閉めている。
私はグランドピアノに歩を進め、祐に背を向けた格好で、一度だけコクンと頷いてみせた。
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