イジワル外科医の熱愛ロマンス
「わざわざこれだけの為に?」


私の手から受け取りながら、ますます訝しそうに目を細める。
探るような視線を感じて、私は無意識にゴクッと喉を鳴らした。


「これは……口実と言うか」

「また、それもお前らしくない。俺を訪ねる口実用意してまで、本当はなんだ?」


そう言われて、私はそっと視線を逃した。
私の目には、蓋が閉じられたピアノが映る。


「……ピアノ、今でも弾くんですね」


私の視線の先を追って、祐が「ああ」と呟いた。


「もともと嫌いじゃないからな。オペに入る前の日とか、精神統一するのにも、なかなか役立ってくれる」


そう言いながら、祐は再び重い蓋を開いた。
長い指を弾ませるように鍵盤を叩く。
ポロンポロンと柔らかい単音が奏でられ、私も彼の指をジッと見つめた。


「祐は昔から、顔に似合わず優しい曲が好きだったから。精神統一にはぴったりです」

「おい。顔に似合わずって、なんだ。それを言ったら、お前だってそうじゃないか」


祐はムッとしたように眉を寄せ、手にしていた本をピアノの上に置くと、ギッと椅子を軋ませて座った。


「地味で大人しい顔してるくせに、やたら明るい弾むような曲ばかり」


そう言って、祐は右手だけでメロディを弾き始めた。
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