イジワル外科医の熱愛ロマンス
それを聞いて、私もつい微笑んでしまう。


「英雄ポロネーズ」

「好きだろ?」

「はい。……好きです」


祐の言葉を自分で繰り返し、私の胸がトクンと小さな音を立てた。
思わず胸元をギュッと握りしめると、祐は鍵盤の上で手を止める。


「……祐?」


続きを弾こうとしない祐に、私はそっと呼びかける。
彼は一度自分の右手に視線を注ぐように顔を伏せ、「いや」と小さく首を横に振った。


「だったら、特別に一曲弾いてやるよ」


そう言って、左手も鍵盤の上に乗せる。
私は、ピアノを弾き始めた祐のすぐ隣に佇んだ。


鍵盤の上を滑らかに走る祐の長い指を、ただただ懐かしい思いで見つめる。
彼が私の為に奏でてくれる明るく弾んだ曲が、再び私の胸を締めつける。


「やっぱり……違う」


鍵盤に視線を落としたまま、私は無意識にそう呟いていた。
小さな独り言は、緩急ついた軽やかなピアノの音に掻き消され、祐の耳には届かない。
私は身体の脇に垂らした手をギュッと握りしめた。


昔から変わらない祐を見てドキドキする。
私が思った通り、初恋をやり直すだけなら、もう既にここがゴールだ。


「私……祐のピアノ、とても好きです」


一瞬前よりも意識して呟いたその声は、今度は祐にも聞こえたようだ。
彼は鍵盤の上で両方の手を止め、私を見上げて「え?」と聞き返してくる。
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