イジワル外科医の熱愛ロマンス
私の胸の鼓動は早鐘のように打ち鳴り、大きく揺さぶられた心が昂っていく。


「雫」


祐は一度目を伏せ、静かに私の名を呼んだ。
後頭部に回されている彼の手に、グッと力がこもる。


「あの時とは違う反応、俺に見せろ。ここからは、等身大の大人の恋、教えてやるから」


耳元で挑むように囁かれ、私の鼓動が大きくリズムを狂わせた。


『あの時とは違う反応』―—。


祐が、なにを意味してそう言っているか、私もちゃんとわかっている。
祐の部屋に最後に入った時の記憶。
私は彼の婚約者だったけど、彼を拒んだ。
絶対にあなたのものにはならない、と。
それと違う反応と言われれば、一つしかない。


一度、ゴクッと唾をのんだ。
怯む気持ちはある。
それは誤魔化しようがない。


でも、今、私が祐にすんなりと『好き』と言えたのは、その言葉だけで伝わるものじゃないと、自分でもわかっていたからだ。


祐のピアノが好き。
私が告げた『好き』は、それとほとんど大差がない。
だから、私は――。


「……はい」


『好き』と伝えるだけじゃ、満足できない。
どうしようもなく好きになって焦れて、狂おしいほど相手を求める。
そんな大人の恋に踏み出したくて、短く一度だけ返事をした。
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