イジワル外科医の熱愛ロマンス
そこにいるのは、日本の象徴的な花の名が似合う華やかさや美しさの欠片もない、地味で控えめ、静かな雨を連想させる『雫』の方がしっくりくる女だ。


今まで染めたことのない黒髪は、手入れだけはしているから、一応そこそこの艶がある。
真っ黒ではないから、見た感じそれほど重苦しくないのが救い。
肩甲骨の下に届くくらいの長さがあるから、仕事中はちょっと高い位置で一つに纏めている。


デスクワークをする時はノーフレームの眼鏡をかけるけど、今は外しているので裸眼。
窓に映る私の顔の全体像は、それぞれのパーツにはっきりした特徴がないせいか、ぼんやりして見える。


一言で言えば、美人とか可愛いとか以前に、あまり印象に残らない、『控えめ』な顔立ち。
まさに、祖父の付けた名前を体現している。
それが、私だ。


古くからの友人たちは、『もっとしっかりメイクすれば、ちょっとは際立つのに』と言ってくれるけれど、私は誕生日を迎えたら二十八歳になる。
と言っても、同級生の中には、その数日後には二十九歳になる人だっている。
つまり、もうすぐ二十代最後の年を迎える、アラサーだ。
見た目なんか今更どうでもいい。


いや……それは今だからってことじゃない。
もう遠い昔から、私は自分を磨くということをせずに生きてきた。
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