イジワル外科医の熱愛ロマンス
頭の中には、さっきの『バラすぞ』が、グルグルととぐろを巻いて回っている。


だけど、これは仕事。
これも、一応秘書としてのお仕事。
とにかくそこに徹しなければ。


私は返事をした後もムカムカしながら、ようやく意を決して立ち上がった。
手ぶらで行くのもどうかと思い、とりあえず無意味に手帳を手にしてみる。


思い切って顔を上げると、宙の真ん中で祐とバチッと目が合った。
彼がふんと鼻を鳴らしてほくそ笑むのを見る。


悔しさは煽られる。
一度スーハーと深呼吸をして、私は虚勢で胸を張ってちょっと大股で歩いた。


それを見て、祐は再び私に背を向け、さっさと先に出入口に向かっていく。
開けたドアを肩で押さえるようにして、私と合流する。


そして、軽く背を屈めて余計な一言。


「お前とキャンパスデート、初めてだな」


――『デート』じゃないし、キャンパスじゃなくたって初めてだ。


言い返したいのはやまやまだったけど、言ったが最後、またはらわたが煮えくり返りそうで、私はとにかくグッと堪えた。
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