イジワル外科医の熱愛ロマンス
遠い桜に想いを馳せて、私はついボーッと目を細めてしまった。


桜を見ると思い出すこと。
それは名前の由来だけじゃない。
この春という季節……まさに、私のほんの数日後に誕生日を迎えて二十九歳になる、同学年の幼なじみ、宝生祐(ほうしょうゆたか)の存在だ。


生まれ年が一年違うから、同学年と言っても、同い年になるのはそのほんの数日だけ。
日本の新年度が欧米諸国と同じように九月だったら、『同い年』という感覚すらなかったはずだ。


だからこそ……私は『私がもうちょっと遅く生まれてたらよかったのに』と昔から思い続けてきた。


同学年じゃなかったら。
私と祐の接点はもっともっと……確実に少なかったはずだ。
そうしたら私だって、少しは――。


つい記憶の波にのまれそうになって、私はハッとして顔を上げた。
そして、すべて意識から追い払おうとして、一度強く頭を振る。


気を取り直して窓から離れ、廊下をちょっと大きな歩幅で前に進む。
ちょうど廊下の真ん中辺りにある階段に折れ、少し小走りで降りた。


あともうちょっとで今日の業務も終わり。
デスクに戻って残った雑務を片付けて……今日の退社目標時刻、午後五時四十五分はクリアできそうだ。
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