イジワル外科医の熱愛ロマンス
なのに、祐は「いや」と首を横に振る。


「挨拶はまたでいい」

「え? でも」


祐の社交性の高さは私が知る人の中ではダントツだ。
むしろ、私が言わなくても顔を出したがると思っていたのに。
ほんのちょっと予想と違って戸惑う私の耳に、「あら?」と女の人の声が聞こえてきた。


「宝生君! 宝生先生じゃない?」


声を弾ませ、ナースシューズをパタパタと鳴らして走ってくるのは、この4B病棟の看護係長さんだ。
私はきょとんとしながら彼女に向き合い、軽く会釈で挨拶をする。


呼ばれた当人は口元を大きな手で覆い隠し、そっと私から目を逸らした。
そして、声をかけてきた看護係長さんには、「お久しぶりです」とボソッとした声で返事をする。


「……え?」


知り合い?と怪訝な気持ちになりながら、私は無意識に眉間に皺を寄せた。
私から顔を背けている祐の右の頬骨辺りを、食い入るようにジッと見つめる。
私と祐の様子は気にせず、看護係長さんはまだ楽しそうに彼に話しかけていた。


「研修医として心臓外科医局に来た時以来だから、どれくらいぶりかしら? 三年……四年くらい?」


それを聞いて、私は大きく目を見開いた。
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