イジワル外科医の熱愛ロマンス
「あのな。心臓外科の研修でここに来てたこと、別に俺、隠してたわけじゃねーぞ」


私が突然キャンパス案内を放棄した理由ぐらい、祐はお見通しだ。
サラサラの前髪を軽く掻き上げ、言い終わるときゅっと口を噤んだ。


「婚約してから、何度か会った時に、お前にも話したこと……」

「そんなこと、どうでもいいです。でも、私が気付いてないことを利用して、キャンパス案内なんて言ってきたんでしょう? 卑怯です」


私は祐が言い訳しようとするのを遮り、それだけピシッと言った。
口ごもる祐にクルッと踵を返し、再び歩き出そうとした。


「だから、待てって」


それを祐が肘を引いて止める。
振り払おうと腕を上げる私に、彼がわずかに声を荒らげた。


「話したいんだよ」


肘を掴まれたまま振り仰ぐと、祐はムッとした表情で私を見下ろしていた。


「話し相手が欲しいのなら、やっぱり美奈ちゃんの方が適任でした」


祐の切れ長の目で見つめられるのは、前から苦手だ。
私は大きく腕を振って彼の手を解きながら、素っ気なくそう言った。


「世間話がしたいんじゃねー。……お前とじゃなきゃ、できない話」


返された言葉に、私はふっと眉を寄せた。
彼がなにを話したいのかわからないけど、いち早く危機を察知した私の古傷が疼く。
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