イジワル外科医の熱愛ロマンス
「……失礼します」


目を逸らし、意識して大きな一歩を踏み出す。


「だから待てって言ってんだろ。ちょっとは人の話聞けよ!」


祐は苛立ち交じりの声を張り上げ、今度は私の肩をギュッと掴んだ。
強引に歩を止められ、私は振り向けないまま俯いた。


「……こっち向け、雫」


一度自分を落ち着かせようとするように溜め息をついてから、彼が続けた声はいつものトーンよりちょっと低い落ち着いたものだった。


「だから、名前……」

「本郷さん。俺、お前に嫌がられるようなこと、なんにもしてねーぞ」


強引な祐に反抗したくて、私が口にした言葉をあっさりと遮り、彼はどこか忌々しげに呟いた。
それには、私はそっと肩越しの視線を向ける。


「それどころか、むちゃくちゃ我慢して待ってやったぞ? お前に嫌だって言われたから、婚約したってのに、キスもセックスもせず……」

「っ……そ、そういうことを、恥ずかしげもなくキャンパスで口にしないでください!」


平然とした口調でシレッとデリカシー皆無の言葉を漏らす祐を、今度は私が慌てて止めた。
掴まれた肩を捩るようにして彼の手を払い、一度大きく息を吸ってから、身体の向きを変えた。
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