イジワル外科医の熱愛ロマンス
祐と対峙すると、顔を真っ赤にして睨みつける。
それに、祐はわずかに眉尻を上げて呆れたような溜め息をついた。


「じゃあ、プライベートの時間割けよ」

「今更、私になんの用があるんですか」

「……それ、本気で言ってんのか?」


祐の声が険しさを増したのを感じて、私は目を伏せて俯いた。
祐は私を見下ろしたまま、ガシガシと頭を掻く。


「なあ。教えてくれよ。俺との婚約OKしておきながら、なんで俺は、はなから全部拒まれなきゃなんなかったんだ?」


誰もいない、と言ってあんな言葉を口走っておきながら、祐はどこか辺りを憚るように声を低めた。
静かに訊ねかけられ、私はビクッと身体を強張らせる。


「お前、俺が初めて抱こうとした時、言ったよな。『婚姻届だけで十分でしょう。絶対に、身体も心もあなたのものにはなりません』って」


祐はそう言いながら目を伏せていた。
彼の口から発せられたのは、まさに何年か前に私自身が言った言葉だ。


あの時は、あまりの驚きにドキドキして、焦りと戸惑い、恐怖……説明のできないいろんな感情が入り乱れて、とにかく拒むことに必死だった。


ベッドに組み敷かれ、パニックしながら祐を見上げたことを思い出し、今になっても私の身体がゾクッと震えた。
思わず、両肘を抱え込むように身を竦めた。
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