イジワル外科医の熱愛ロマンス
だから婚約破棄だって、祐の方が喜ぶとばかり思っていた。
それでも、祐が侮辱されたというのなら、それに関しては謝罪するより他ない。


私は少し冷静さを取り戻し、一度大きく深呼吸をした。


「ごめんなさい。今更ですが、あなたが味わった屈辱についてはできる限り償います」


そう言って、私は彼に深々と頭を下げた。
祐は私の謝罪に怯んでいるのか、黙っている。


「でも、私には恋も結婚も無理なんです。それは、なにもゆ……宝生先生に限らず、誰に対しても同じなので」


頭を下げたまま一気にそこまで言い募ると、「え?」と短く聞き返された。
そのまま絶句している祐の前で、私はゆっくり顔を上げた。


「……それはあなたのせいですから」


言わなくてもいいとわかっていた一言を最後に付け加えたのは、全面的に私に非があると思われるのは悔しかったから。
心のどこかで、私はずっと言いたかったんだと思う。
『こんな私になったのは、全部祐のせいなんだから』と……。


「っ、なんだよ、それ。どういう意味だ?」


祐はわずかに気色ばみ、怪訝そうに目を細めた。


「失礼します」


だけど私はそれには答えず、今度こそ足を止めることを振り返ることもせず、真っすぐ医学部棟に向かって歩き出した。
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