イジワル外科医の熱愛ロマンス
足を止めて操作して起動させてしまうのは、もちろん恋愛ゲームのアプリだ。
スマホのロックを解除する時は、一番にアプリを確認する。
それが習慣になっていると言っていい。


だけど今は、業務時間内。
医局のデスクに張りついているわけじゃなく移動中とは言え、スマホを弄るのだって褒められたことじゃないとわかっている。
でも。


「……気分転換。今の私にはそれが絶対的に必要なこと」


変な開き直り方をして、私はそのまま歩き出した。
歩きスマホもいけないこと、とわかっているけど、ありがたいことに見渡す先には、人っこ一人いやしない。
一応チラチラと前方を気にしながら、私は白昼堂々、ゲームの中の翔君との恋に胸を弾ませ始めた。


昨夜、翔君をデートに誘うのに成功したところで、ストーリーは終わっていた。
今日は、翔君と待ち合わせをするところから始まる。
ちょっと時間に遅刻して、走ってきた様子の彼が、焦った表情で語りかけてくれる。


『ごめんね、雫。待たせちゃったかな』


画面の中の翔君は、ちょっと申し訳なさそうに眉をハの字にしている。
それに対して私は『ううん、全然! 私も今来たところです』と、声に出しそうになりながらそこを堪えて、頭の中で返事をしたけど、ゲームの中の『雫』はちょっと拗ねたような言葉を返す。
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