イジワル外科医の熱愛ロマンス
こんな感触、私は知らない。
それでも、私の唇を塞ぐ物が祐の唇だと理解するのに、それほど時間はかからなかった。


「!!」


反射的に怯み、腰を引いて逃げようとした。
だけど、私の反応を見透かしていたのか、腕を掴んでいた祐の手が、私の腰に回される。
そのまま、クッと抱き寄せられた。


私の全神経は、今、唇に落とされる感触に集中していた。
近すぎてぼやける祐の端正な顔。
長い睫毛がわずかに震えて、私には羽ばたくように見える。


柔らかく唇を食まれる感覚と、鼓膜をくすぐる『ちゅっ』という音があれば、経験なんかなくても、なにをされているかくらいはわかる。


――キス、されている。


「いっ……やっ……!!」


寸断していた思考回路が働き始めて、自覚するのとほとんど同時に、私は祐の胸を両手で突き飛ばしていた。
私の手からスマホが落ちて、床でゴトッと音を立てる。


祐の腕と唇が、私から離れた。
遠のく温もりにホッとするより早く、私は両手で唇を押さえていた。


「~~っ……!!」


なにも言えない。
ただ、頬が真っ赤になっていることはわかった。
だって、ありえないくらい心臓がドキドキと高鳴っていて、身体中熱く火照っているのが嫌ってくらい感じ取れたから。
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