イジワル外科医の熱愛ロマンス
私に突き放された祐は、どこか不快気に眉尻を上げていたけれど。
真っ赤な顔で涙目をした私が、絶句して肩を震わせているのを見ると、意地悪に微笑んだ。
そして。


「とりあえず、軽めにファーストキス、いただき。……なあ。言っとくが、これ、序の口だぞ」


そんな、意味不明なことをいけしゃあしゃあと言いのける。


「なっ……なっ……」


やっと声が出たのに、それはなかなかまともな言葉にはなってくれない。
心と身体と頭の足並みが狂い、自分でもどんな反応が正しいのかわからない。


結局なにも言えないまま、膝からカクンと力が抜けて、私はその場にペタンと座り込んでしまった。


そんな私を、祐は白衣のポケットに手を突っ込んで、ただ冷たく見下ろしている。


「この程度のキスで腰抜かしてるようじゃ……予想以上に楽しい復讐劇が演出できそうだな」


しかも、そんな恐ろしいことを楽し気に呟き、私の鼻先で白衣の裾を翻す。


「いいか、雫。いつ俺がその気になっても恥ずかしくないように、これからは下着まで気遣って身に着けろよ。じゃあな」


呆然とする私に背を向けると、なにやらとんでもないことを口にして、祐は大きな歩幅で颯爽と図書館から出て行ってしまった。
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