イジワル外科医の熱愛ロマンス
二人のやり取りに、祐が口元を手で隠しながらブブッと吹き出す。


「森居さん。オジサンったって、木山先生まだ三十六歳だろ。俺ももう来年は三十だし。大して変わらないよ」


フォローになっているんだかどうかわからないことをクスクス笑いながら言って、彼は口に手を当てたままチラリと私に視線を流した。
木山先生と美奈ちゃんのやり取りに気を取られていた私は、すっかり油断していて、宙の真ん中で祐とバシッと視線が絡んでしまう。


不覚にも鼓動が飛び跳ねてしまう私を見つめながら、祐はどこかゆっくり口から手を離した。
わずかに口角を上げた唇が現れ……いや、むしろそこに注意を引く仕草のせいで、私は祐の口元をしっかりと目に焼きつけてしまった。


「っ……」


意地悪な策略にまんまとハマった気分で、私は小さく喉を鳴らし、三人にクルッと背を向けた。
そして、私のミスから始まり完全に逸れていった話題から逃げるように、そそくさと自分のデスクに戻る。
背後で三人の明るい会話がまだ続いているのを聞きながら、私は椅子を引いて、脱力しながらドスンと勢いよく座り込んだ。


デスクには、園田教授に頼まれた本も何冊か積んである。
木山先生に渡してから教授室に持って行こうかと思っていたけど、教授に渡す前に一度メモとタイトルを照合してみた方がいい。
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