イジワル外科医の熱愛ロマンス
そんな意味しかないキスにドキドキして冷静さを失い、バカみたいに初歩的なミスをしでかす私を嘲笑って、それで祐は満足なんだ。


悔しいけれど、本当に頭の中は祐でいっぱいだ。
なのにこれが『序の口』だなんて……。


手が震える。
重ねた手で必死に抑え込もうとしても、まるでこむら返りのように体幹からせり上がってくる震えが止まらない。


とにかく落ち着け、と自分に言い聞かせる。
手だけじゃなく、目も口もギュッと閉じた。


いくらなんでも、すべてを奪うなんて言われたまま、言いなりになってちゃいけない。
祐の手が届かない距離を、ひたすらキープし続けなければ。


大事なファーストキスを奪われたんだ。
幾つになったって、『初めてのキス』は女の子にとって大事なもので、そのシチュエーションだっていろいろ憧れを抱いていた。


そう、ゲームの中のヒーローたちが『雫』にくれるような、ドラマティックでロマンチックなキスを、私は心のどこかで夢見ていた。
なのに、あんな……。
鼻の奥の方がツンとしてきて、私は固く奥歯を噛み締めた。


序の口にしちゃいけない。
これから先は、もっともっと警戒して、絶対に半径五メートル以内に祐を近付けない、近付かない。
自分の身は自分で守らなければ……!!
< 71 / 249 >

この作品をシェア

pagetop