イジワル外科医の熱愛ロマンス
顔を向けた先には、シックなスーツ姿の中年ご夫妻が立っていた。
それを見て、祐はほんの一瞬小さな溜め息をついた。


あまりに小さかったから、彼に手を取られている私にしかわからなかっただろう。
聞いてしまった私がきょとんと目を丸くする間に、祐はスマートに彼らに向き直った。


「ご無沙汰しております。研修医課程を修めるのに忙しかったので、華やかな場からは遠のいておりました」


すぐににこやかな笑みを浮かべ挨拶をする。
夫妻がニッコリと笑顔を返す中、私の耳元でコソッと「真田記念病院の院長夫妻だ」と教えてくれた。
それを聞いて、私もちょっと緊張しながら黙礼した。


祐に腕を引かれている私に、二人の視線が向けられる。
ちょっと遠慮がちに私の全身を観察していた奥様が、「あら?」と首を傾げた。


「そちらのお嬢さんは、確か……」

「初めまして。本郷雫と申します」


もしかしたら、どこかで会ったことがあるのかもしれないけれど、私には見覚えがなかった。
口元に手をやって逡巡する奥様に、私は自ら名乗って頭を下げた。
奥様がポンと手を打ち、「そうそう」と相槌を打つ。


「でも……ご婚約は解消なさったのでは?」


二人とも、私と祐を交互に見遣りながら声を潜める。
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