イジワル外科医の熱愛ロマンス
私を気遣ったのかどうかはわからないけれど、祐がそう言うと、院長は謝りながらも、チラリと私に視線を向けた。


「本郷さん、不躾な話を、失礼しました」

「……いえ……」


顔に浮かべ続けていた笑みが、ちょっとぎこちなくなるのが自分でもわかる。
婚約は解消したのに、祐にエスコートされる私を、『本当はまだ関係があるんじゃ?』と疑っているような気がしたからだ。


少なくとも、祐と娘の縁談を望む彼らにとって、今、彼の隣にいる私を疎んでるのは確かだろう。
院長夫妻から向けられる視線に怯んでいる間に、祐は二人に暇を告げて、再び私の手を引いた。


「行こう、雫」


私も慌てて二人に頭を下げ、祐の後について階段を上り始めた。
彼は私を振り返ることなく真っすぐ前を向いて歩を進める。
あんな話を耳にしてしまった後、この沈黙がとても微妙で、私はなんとなく声をかけてしまった。


「あの……祐」

「悪かった。あの二人の姿が見えたから、逃げたつもりだったんだけど」


私の声を遮って、祐が謝罪をする。
それを聞いて、院長夫妻の娘との縁談の話を、私には聞かせたくなかったことがわかった。


「……ううん。別に」


そう返事をしながら、わかってしまった。
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