イジワル外科医の熱愛ロマンス
朝からずっと、探っていた、祐の思惑。
きっと、祐は縁談話に気乗りしないんだろう。
ここに私を連れてきて、『今でも親しい』ことをアピールして、縁談を破談にしようとしたんじゃないだろうか。


今日の誘いは、彼が言ったように、『デート』なんかじゃない。
私はただ、元婚約者だから利用されただけ。


祐の隣に並んで恥ずかしくない格好を求めたのだって、実家の病院が共催するチャリティーコンサートに出かけるからというわけじゃない。
縁談相手の両親の目に留まった時、私がいつも医局にいる時のような地味な格好じゃ、体裁が悪いからだ。


心の中で、『なんだ』と呟いた。


「だったら、私の為にチケットを手に入れた、みたいな言い方しないでくれれば……」


無意識にボソッと呟くと、先に階段を上り切った祐が眉を寄せながら振り返った。


「なんか言ったか?」


最後の一段を上り切り、隣に並んだ私にそう訊ねてくる。
私は目を伏せたまま、黙って首を横に振った。


彼は訝しげに口を結んでから、二階のボックスシートのドアに向かって通路を歩き始める。
私は終始自分の靴の爪先を見つめたまま。


――コンサート、楽しもう。


私がここに来たのは、その為なんだから。
自分に言い聞かせて、私はそう納得した。
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